西田 スペース表現=空間表現。こう聞くと、建築やインテリアに関わることを学べる場所?と思う方がほとんどだと思います。ですが、私たちが目的としているのは、そのイメージとは少し違っています。背景にあるのは、「建築、インテリア、都市計画といったような専門的な領域にゴールを定めるのではなく、人間の根元にある感覚や欲求をよく知ることから空間にアプローチしたい」という思いです。たとえば建築物の始まりは、人間が安全に過ごせる場所(シェルター)です。そこに居心地の良さが加わり、装飾性が現れ、建築という分野はどんどん発展してきました。それと同時に建築は、意匠設計、構造設計、歴史家、法律関係など、高度に細分化・専門化され、作るための技術や知識の方にフォーカスが当たっていきます。技術先行のあり方は高品質なものを生み出せる一方で、人間の感覚に直結したプロセスがとりづらくなってしまうという課アート・デザイン表現学科に、2024年度から新たに設置される「スペース表現領域」。その中心を担う2人の教員が、本領域での教育にかける思いと、さまざまな特徴、魅力を語ります。題もあります。こういった背景があり、スペース表現領域では「空間ってそもそも何?」というところから空間の原点を知り、原初の視点を持って空間そのものを見つめ直すことができる人を育てたいと考えています。空間の原点に立ち返り、人間の感覚を大切に学ぶことができる場所。そんな学びの場をめざしてスペース表現領域は生まれました。後藤 加えて、今の時代背景もありますよね。僕が社会に出た頃はモノやデザインがまだまだ足りなかった時代で、人のことを考えてつくられていないものも数多くありました。でも今は社会が成熟して、ほしいものはすぐに手に入るし、身の回りのほとんどが「デザインされたもの」ですよね。インテリアデザインでも建築でも、すでにさまざまなことが実現されていますし、完成度もすごく高いんです。一方、新たな潮流としてメタバースや情報空間、サイバー空間が注目され、チームラボに見られるような新しい形の空間アートの出現など、空間の概念はどんどん拡張しています。さらに、テキストや絵画、イラストの分野でめざましく発展するAI技術は、遅かれ早かれ空間の分野にも入ってくるはずです。そこで忘れてはならないのが、やっぱり空間は人間のための空間であるということ。AIが出す多様な答えに対して、人間の感覚を大切にして、正しい選択ができる人を育てる必要があります。今までの世の中と、空間のあり方が大きく変わっていく時代。私たちはこの先の社会のためにまず「何を描くべきか」「何をつくるべきか」をしっかりと考えていきたい。これからの世の中で「何が必要か?」をしっかり描ける人を育てることも、スペース表現領域のめざすところですね。What is the Spatial Experience?スペース表現領域が生まれた理由
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