広報誌No.198_
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すると、観る人がその絵を解釈する余白が生まれます。悲しいときに眺めたら、どこか物悲しげに見える。嬉しいときに眺めたら微笑んでいるようにも見える。絵画そのものの要素が少ないからこそ、観る人が入り込める。私が表現したかった作風が、ようやく見えてきた時期でした。作品づくりにおいて「絵に語らせすぎない」ことがいかに大切か。ジュエリー会社での接客経験を通じて、このことをいっそう実感するようになっていったのです。この作風が世に受け入れられたのは、作品展「見参」です。これは、作家を志す若手の登竜門といわれる大規模展示。同じく出展を予定していた女子美の卒業生が声をかけてくれました。この展示が反響を呼び、後日開催された初めての個展では私の作品の前に列をなす人々を目の当たりにします。折しも美人画ブームが追い風となり、大人気を博しました。「自分の絵も人に買ってもらえるものなんだ」という手応えを初めて得たのがこのときです。近い将来作家として独立することを意識するに至った出来事でした。ちょうど同じ年に、もうひとつの転機が訪れます。画集『美人画づくし』に、作品を載せていただいたのです。画集を目にし  

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