147スペ ース 表現 領 域 の3 つのアプローチ0 1プリミティブスペース(原初の空間)テンポラリースペース(瞬間の空間)0 20 3イマーシブスペース(没入する空間)西田 本領域のキーワードは「世界をよく知ること」だと思っています。すでに確立され、効率化されたシステムの中でうまくオペレーションすることよりも、人間の欲求の原点を知り、目の前の世界の肌ざわりを知ることを大事にしたい、というのが私たちの思いです。どうして焚き火の周りに集まりたくなるんだろう。どうしてカーテンの裏って落ち着くんだろう。そういう感覚の奥底にあるもの、世界経験のようなものを研究したい人には面白い領域だと思います。スペース表 現 領 域での学びとは?求める学 生 像と、卒 業 後 の姿「空 間」とはそもそもなんでしょう? 森の陽だまりからカーテンの裏側まで、空間の始まりについて考えます。カーテンが 開いているのと閉じているのとではその空間の経験は同じでしょうか? 日常の様々な場 所に隠れている空 間の表 情の変化について考えます。日常と非日常の境目はいったいどこにあるのでしょう? 普段の生活を彩り豊かにするような、知覚を刺激し没入させる空間の可能性を探ります。西 田 スペース表 現 領 域のカリキュラムの特 徴は、空 間を3つの概 念で 捉えて学んでいくことにあります。一つ目の概念が「プリミティブスペース( 原 初 の 空 間 )」。まさに空間の原点を知るところから始めます。空間が立ち上がる瞬間ってどういうことなんだろう。空間の定義って何だろう。人がいて成り立 つ 空 間というものの 原 点にまつわるさまざまなことを考えていきます。次に「テンポラリースペース(瞬間の空間)」。これは仮設の空間、瞬間の空間を意味しています。たとえば光の入り方の違い、椅子の 配 置の 違い、そこで 行われることの違いによって、空間というのは驚くほど変容していきます。空間における瞬間の変化などを考えるのがテンポラリースペースです。それらを「イマーシブスペース(没入する空間)」へとつなげていくのは、スペース表現領域の大きな特徴といえるかもしれません。VR、メタバース、劇 場、映 画 ……新しいテクノロジーを使って、物語のなかに感 覚が 没 入していく空 間。非日常で 圧倒されるような空 間 体 験について考えていきます。ここはアートの領域とも深くつながってくると思います。そして、この3つの概念に共通しているのは、どれも「人間の感覚」に立ち返って考える必要があるということ。だから実習や演習など、体験的な学びから自分なりの「感覚」を発見していく、人 間の感 覚というものを重 視したカリキュラムになっています。後藤 やっぱり、人間が好きな人かな。空間は人が生活する、生きていく舞台ですよね。それがどんな空間だったら心地いいのか?を考えることを楽しめる人は、ウエルカムです。興味があるのなら大丈夫、モチベーションがあればデッサンに自信がなくても、美術を本格的に学ぶのが初めてでも、臆せずに飛び込んできてほしいです。空間を表現するために必要な技術はもちろん学んでいきますが、今はまだできなくても、入学してから学ぶことができます。それから将来の活躍というところでは、デザイナーやアーティスト、既存のスペース関係の分野はもちろんのこと、心地よい空間を考えられる人として、たとえば公共のまちづくりや福祉分野などで空間のクォリティを上げていけるような人を育てたいという気持ちもあります。“人の心地よさ”に対して感覚を研ぎ澄ませ、社会の居場所づくりをしっかり考えられる人を、ここから送り出していけるといいなと思っています。後 藤 西 田 先 生が 紹 介してくださった3つの概念からのアプローチを通して、アナログ空間、デジタル空間両方を扱うことは、スペース表 現 領 域 の 特 徴ですね。また、本 領 域はアート・デ ザイン表 現 学 科の 一つの領域でもあるので、学科内のメディア表現領域、クリエイティブ・プロデュース表現 領 域、ヒーリング 表 現 領 域、ファッション表現領域といった他領域と一緒に演習を行う機会も多く設けていきます。建築やインテリアなどの人 工 物だけでなく、自然というのも大 事な要 素ですから、自然 豊かな相模原キャンパスとの連携も行っていく予定です。それからスペースの拡張という意味で、宇宙というテーマも取り上げていきます。重 力のない 宇 宙 空 間という題材に取り組むことは、既 成 概 念を飛び 越えて発想する訓練にもつながります。宇宙旅行の始まりもすぐそこですから、宇宙での空間利用のあり方について考えを深めることも視野に入れています。西田先生もおっしゃるように、本領域では実習や演習などを多く取り入れたカリキュラムを予定しています。体験することを通して、人と違う視点、自分なりの物差し、たくさんの発想の引き出しを持ってもらいたい。大学を出たあとの人 生は長いですし、世の中の変化のスピードも増しています。空間をデザインしたり、考えたりするにあたって、色褪せることのない自分なりの軸やこだわりを見つけて社会へ飛び立ってほしいです。
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